ソフト開発未来会議 サイト公開記念 キックオフ座談会
未来会議はなにを目指すのか?未来会議コアメンバーが熱く語るこれからのITの行方
萩本順三 氏 萩本順三 氏 萩本順三 氏 萩本順三 氏
株式会社 匠Lab
代表取締役
萩本順三 氏
ライター
(元 @IT発行人)
新野淳一 氏
株式会社アークウェイ 代表取締役
森屋英治 氏
聞き手
株式会社デジタルアドバンテージ
代表取締役
小川誉久
(@IT/Windows Server Insider編集長)
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  • 「ソフト開発未来会議」では、ソフトウェア開発者が自身の明るい未来を切り開くために、何が必要かを考えていきます。今回はそのキックオフとして、「ソフト開発未来会議」の会議参加メンバーにお集まりいただき、ソフトウェア開発者を取り巻く現状と問題点、あるべき姿などについて議論していただきました。
  • ■ IT 業界のいま
  • ―― 「IT 業界が閉塞感に見舞われている」という意見を取材などでよく聞くようになりました。例えば 2008 年 10 月から、それまで日経産業新聞の 2 面にあった「ネット・メディア」が 4 面に後退し、代わりに「環境・新エネルギー」が 2 面に昇格しました。これだけで業界の栄枯盛衰を語るのは行き過ぎだと思いますが、一面を表していると思います。IT 業界、特に今回の主題であるソフトウェア開発者は、本当に閉塞的な状況にあるのでしょうか。
  • 新野氏: ソフトウェア開発者が努力して作っても、それが最終的なエンド ユーザー価値につながっていない現状があると思います。頑張って作っても評価してもらえない、だからやりがいも薄れるし報酬も上向かない。これでは閉塞的になるのも当然でしょうね。
  • 森屋氏:Web 全盛のドットコム ブームの時代は IT が輝いていて、若いエンジニアが熱かった。Web 2.0 でさらなる輝きを期待したんですが、実際にはむしろ業界が縮んでいくような、仕事が奪われるような印象を開発者が受けています。こういう雰囲気が業界の閉塞感につながっているのではないでしょうか。ただし、クラウド コンピューティングの台頭などで開発者にも今までにないチャンスがあるとも思います。
  • 萩本氏: ソフトウェア開発が価値を生み出しにくくなっているという現実があります。価値を生み出すには、エンジニアが自分で考える必要があるのですが、これができていません。エンジニアがこうした知的作業ではなく、創造性のない作業にばかり没頭しています。本来は知的作業こそが IT 企業の財産であるはずです。創造的でない仕事を続ければ、「閉塞感」を感じるのは当然のことだと思います。
  • ■大地震目前? 日本の IT 産業
  • ―― 米国発の世界不況の影響で、日本国内の企業でも業績の下方修正など影響が広がっています。IT 産業への影響も大きいものと思いますが、閉塞感を感じるだけでなく、例えば仕事を失うなど、具体的な影響を受ける開発者も増えるでしょうか。
  • 新野氏: 現在、企業の IT コストの大部分が保守費用だといわれていますが、本来企業の情報部門というのは、サーバーのおもりをするところではなく、IT を自社のビジネスにどう生かせるかを考える専門集団であるべきです。サーバー管理やソフトウェアのインストールなどといった単純な作業は、より安価な社外の労働力で賄うようになるでしょう。しかもこうした外注化は国境を越えていきます。一昨年『フラット化する世界』という本が話題になったのは記憶に新しいですが、例えばシリコンバレーでは年収1000万円だったプログラマーが、安価なインドのプログラマーに仕事を奪われてホームレスになるという例が報道されています。IT 業界全体でコスト圧縮にこたえた結果として、同じスキルを持つ人の世界競争が始まり、仕事がコストの安い人にシフトしていく。これによって人件費の安い途上国側では、豊かになるエンジニアが増えている一方で、先進国側では、コスト競争に破れたエンジニアが厳しい局面に立たされています。これは全体的な傾向でしょう。
  • 萩本氏: パラダイム転換がすでに起きています。その昔、自動車工場の塗装工は、自動車作りに不可欠な技術を持った大事な工員でしたが、これが機械に置き換えられて不要になってしまいました。これと同じことが IT でも起きています。その昔、プログラマーはアセンブラでデバッグする技術が不可欠でしたが、いまは必要ありません。それどころか、OS の知識すらそれほどいらなくなってきています。機械で置き換えられる仕事は、これからも機械に奪われていくでしょう。
  • ―― 厳しい言い方をすれば、IT 業界は縮小するということですか。
  • 萩本氏: メインフレームから UNIX などを使ったオープン システムへの移行が行われたわけですが、ほとんどはメインフレームでやっていたことを、そのままオープン システムに移行するだけでした。時代は大きく変わっているのに、ビジネスの可視化や再検討はまったく行われていない。これでエンド ユーザー価値につながるはずがありません。数年の開発期間、何十億円とする開発費用、これらがほとんど無駄になっていたりします。IT 企業は、自分の仕事を守ろうとして、このまま進みたいと思うでしょうが、ビジネスはそれを許しません。このままいくと、場合によっては日本の IT 産業全体に大地震が起こって、計り知れない打撃を受ける可能性もあると思っています。
  • ■分断されたエンジニア価値とビジネス価値
  • ―― IT 産業の重大危機ということですが、それを引き起こした原因は何なのでしょうか?
  • 萩本氏: 1 つは、IT 企業とエンド ユーザーが分離し断絶してしまっていることです。特に日本には、大手のシステム インテグレーター (SIer) があり、エンド ユーザー企業は、こうした SIer に情報システムの開発を任せきりにしています。一方欧米では、ユーザー企業側に CIO (情報責任者) もアーキテクトもいるのが普通です。その中で、ビジネスと IT が密接にからみながら最適解を探っています。
  • 森屋氏:日本の場合、具体的には、ユーザー企業のビジネスの担当者と、エンジニアの間が Excel ファイルで分断されています。どのような情報システムが必要か、ユーザーは要求項目を Excel で一覧表にします。エンジニアはその Excel シートを受け取り、そこに書かれたことをソフトウェアとして作り込みます。しかしユーザーは IT の専門家ではないので、Excel のデータには有意義な要求仕様は書かれていません。それにもかかわらず、エンジニアからの提案はないのです。これではうまくいきません。Excel ファイルではなく、ユーザーと開発者の間で直接のコミュニケーションをとることが重要です。例えば、Blog ツールなどを活用しているお客様もいらっしゃいます。
  • 萩本氏: ユーザーは正しい要求を出せない。エンジニアも提案しない。時間がない中でユーザーは要求の提出を迫られるので、現行機能保持となってしまい、メインフレーム時代の負の資産もそのまま移行するということになるわけです。
  • 森屋氏:ケースによっては、要求開発からエンジニアへのブリッジ、開発そのものも、すべてコンサルタントまかせ、全部人まかせという場合もありますね。
  • ―― エンド ユーザーが何を求めているのか分からないままに、情報システムが開発されてしまっているということですか。
  • 萩本氏: 根本的な問題の 1 つは、エンド ユーザーの本当の要求が開発エンジニアに伝わっていないことです。現状は、IT エンジニア不在の状態で要求仕様が決められるケースがほとんどです。当初は「こうあるべき」という革新を目指して検討を始めるのですが、途中で抵抗勢力の反対やら何やらでどんどんトーンダウンして、最後は現状維持でいいやとなる。こうして、何も変わらず、多くのメインフレーム システムがオープン化された。そういう失敗事例をいろいろ見てきました。
  • 新野氏: 例えばアパレル会社が、在庫管理システムで製品在庫を中央から効率化しようとすると、店舗のバイヤーが反対したりします。これまで各店舗のバイヤーの経験や勘、好み、誇りを持ってやってきた仕事と権限を奪い、中央管理に切り替えようとしたからです。本当は中央で管理した方が効率的だとしても、店舗側が強く反発して情報部門が社内政治に負けると、店舗ごとに在庫を管理するということになる。こうして、そもそも全体最適を実現しようという要件がねじまがってしまうわけです。こうした要件が顧客から落ちてくれば、現場の IT エンジニアは、それを忠実に作り込もうとします。しかしこれでは、どれだけ IT エンジニアが頑張ったところで、全体最適を実現する情報システムにはなりえません。
  • 萩本氏: 残念ながら多くのユーザー企業は、IT が全部うまいことやってくれると考えていますが、これは勘違いです。IT をどう使うかを考えるのはユーザーなのです。ユーザー自身が新ビジネスと IT の結果イメージを予測できなければ、使いものになる情報システムは開発できない。そういうことを学んでいかないといけません。
  • ―― エンド ユーザーは IT の専門家ではないから、正しい結果イメージを持つことはそもそも難しいのでは。
  • 萩本氏: そのとおりです。問題は、要求開発の段階に IT エンジニアが参加していないことです。ソフト開発以前のビジネス戦略立案の段階でも IT エンジニアが必要なのですが、実際にはそうなっていません。
  • 森屋氏:情報システム開発において、本来はエンジニア価値とビジネス価値がつながるはずですが、これが分断されてしまっているのです。
  • ―― 全体最適というのは、ビジネスの観点からは正しいのだと思いますが、ときに余剰人員を生み出してしまうなどの痛みを伴います。特に日本の企業は、終身雇用や年功序列という特徴があり、それらが全体最適化への反対圧力になりませんか。
  • 森屋氏:確かに、ビジネス分析を進めると、ある部署を維持するために、無用なプロセスがわざわざ挿入されていたりするのを目にすることがあります。10 人いたら、10 人分の仕事を作ってやるというような発想ですね。
  • 萩本氏: そういう側面はあるでしょう。しかしボーダレス化が進む現在、企業は世界的な競争にさらされているわけで、本質的な効率向上を追求しない企業は、早晩力を失うことになってしまうでしょう。
  • ―― 企業が、自身の弱体化を進めてしまう。
  • 萩本氏: 企業自身が、どこをどう走っているのかが見えていないことが問題です。日本人は、プロジェクト運営がうまくありません。本来は周囲の合意形成を図りながら、最短距離を走る工夫をしなければなりませんが、実際には既存業務を並べるだけというケースが多いです。目的を明確化して、不要な業務は削っていくような、覚悟の伴うプランと行動が必要です。
  • 新野氏: 「見える化」がなされていないということですね。どこに無駄があるか、何が停滞しているかを社員が共有していれば、そういうことにはなりません。ここは IT が大きな力を発揮できる領域です。

 

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