- クラウドをテーマにしたリレーインタビュー第 2 回は、ソフトウェア ベンダーの視点とユーザーの視点の双方を備えた松倉社長にお話を伺った。クラウドは一時的なバズワードなのか、それとも真剣に取り組むべきビジネス チャンスなのか。松倉社長の答えは一貫して、クラウドに対するポジティブなものとなった。
- ■クラウドをバックアップ センターとして有望視
- ─── 貴社は汎用機の運用業務なども行っていらっしゃるので、クラウドとはあまり接点がなさそうにも思えます。現在、クラウドをどのように見ていらっしゃいますか?
- 私もコンピューター歴は長いのですが、クラウドの最初の印象は、UNIX や Windows が登場したときに感じたような、新たなビジネスになりそうだ、というものでした。
- 最初にクラウドについて聞いたときに頭に浮かんだのは、バックアップ センターに使えるのではないか、ということです。汎用機の運用にはバックアップが必要です。しかも天災などの影響などを避けるために、バックアップは地理的にも離れたところ、オリジナルが東京ならバックアップは大阪とか、そうしたところに置かなければなりません。そうしたバックアップがクラウドで実現できるはずだと思いました。
- ─── そのバックアップとは、汎用機のトランザクション機能のバックアップではなくて、データのバックアップですね。
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そうです。汎用機だとテープや DVD などをバックアップ メディアに使いますが、データ量が莫大なだけにこれらの量も半端なものではありません。クラウドならそうした大量のデータの保管ができて、しかもすぐに取り出せるメリットがあるかなと。テープなどに記録すると、あとで読み込みたいときにどこにしまったっけ、という話になりますが、クラウドならずっと簡単になります。
- しかもコスト削減に有効だと期待しています。自社の汎用機のバックアップならすぐにでもクラウドに移行してみたいほどです。いまは汎用機のバックアップ テープだけでも何万本もあって、サーバー センターの大きなフロアを使って収納していますが、これをクラウドを使ってゼロにできるなら非常に大きなコスト節約になります。
- ─── 例えば、貴社でクラウドを導入するとすれば何年後くらいだとお考えですか?
- 顧客向けのシステムはまだ先だと思いますが、自社システムや自社データなら 1 〜 3 年以内には始めてみたいですね。
- ■セキュリティには国境を越えた制度が必要では?
- ─── とはいえ、自社データを社外のクラウドに格納することについて、セキュリティの不安はありませんか?
- 確かにクラウドのサーバー自体はマイクロソフトにしてもグーグルにしてもアマゾンにしても国外にあるわけですからね。ただ、あるクラウドでは米国のセキュリティ認証を取得するという話を聞いたことがあります。これから国際的なプライバシー マークのような、グローバルなセキュリティ基準が作られていくかもしれません。
- そういう認証がきちんととれるようになれば、ビジネス上の利用には問題なくなるのではないかと思っています。
- バックアップ用途以外にも、商売の幅はもっと広がるのではないかと思います。例えば、既存のシステムとクラウドを組み合わせたような新しいものが出てくるとか。クラウドの上で動くサービスを開発したり、既存のシステムをクラウド化したりするサービスなどです。
- ─── 貴社にとってもクラウドへの期待は大きいと。
- 弊社が顧客に提供しているシステムも、次々期システムではクラウドに対応することもあり得ます。そのときに気になるのは ID です。
- 例えば Windows Azure のクラウドを使ったサービスを提供するとなれば、Live ID と弊社が提供する独自のしっかりした ID をリンクさせて使う、といったコントロールが欲しい。やはりしっかりしたセキュリティを提供したいとなれば、認証が大きなポイントになります。
- そういう意味では、強力なセキュリティと課金機能を提供するようなビジネスがクラウドとともに出てくることを期待したいですね。そういう、クラウドに付加価値を加えるビジネスやシステムも大いにありでしょう。
- ■ソフトウェアだけで勝負する時代に変わっていく
- ─── 顧客への提供価格もクラウドによって大きく変わりそうですね。
- そう。いまはハードウェア込みの値段で「システム一式」なんていうあいまいな値段を付けて販売するパターンが IT 業界には残っていますが、クラウドが一般的になれば適正なソフトウェアの値段で勝負するようになるのではないかと思います。純粋にソフトウェアが提供するサービスに従った価格体系です。
- これはソフトウェア業界や、そこで働くエンジニアにとっていいことだと思います。
- 昔は、UNIX の時代なら API の知識があるかないかで開発生産性が大きく違っていたし、いまならフレームワークの知識がそれに該当するでしょう。クラウドを基盤にする限り、その部分の価格は一定ですから、純粋にソフトウェアの生産性や能力の高いエンジニアや、そういうエンジニアが所属する企業が競争力を持てるようになる。顧客からより高い評価を得て、高い価格のサービスを提供できるようになるといいですね。
- ─── ただ、さきほど汎用機のバックアップ運用をクラウドに移行するというお話がありましたが、クラウドによって運用のような仕事はどんどん減っていく可能性が高いですよね。そういうスキルによって仕事を得ていた人たちにとっては難しい時代になります。
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そのとおりです。いま目の前にサーバーやテープがあってそれを運用しているエンジニアがいるけれど、クラウドになればサーバーもテープも目の前からなくなってしまう。だからそういう人には新しいことを勉強してもらうしかない。ただ、同じことばっかりやらされているから、新しいことができるのはやりがいがあるのではないでしょうか。もちろんちょっと大変ではあるけれども。
- ■クラウドは新しいビジネスチャンスになる
- ─── wipse*1 のほかの企業ではクラウドはどのように受け止められているのですか?
- 参加企業は大変盛り上がっていて、早く実験環境を作ってくれ、というリクエストがたくさんきています。クラウドによって、次のビジネスを作るためのネタが出てきたとみなさん考えているのでしょう。
- クラウドを背景にして、これから多くの変化が起こっていくと思います。クラウドなら中小企業も高価なサーバーを購入する必要がなくなるし、小さいソフトウェア開発会社も大企業と対等に開発を行える基盤が手に入る。いいソフトウェア、いいアイデアをクラウドに載せればどんどんスケールして大きなビジネスになるかもしれない。そういう現象がクラウドで出てきますよ、きっと。クラウドなら、大きい会社も小さい会社もスタートラインは一緒ですから。
- 開発だけでなく、既存のシステムをどうやってクラウド化するか、クラウド化によってどれだけコスト削減できるか、といったコンサルティングのビジネスも大いに登場するでしょう。エンジニアはこういった分野でも活躍できるようになってほしい。
- いま景気が悪くなっているところですが、IT 業界の将来はバラ色だと、そう思っていないとだめです。いままでどおりやっているだけなら縮小するだけ。でも視点を変えればいまは「チャンスと充電」の時期で、新しい技術を習得し一歩先行する時期でしょう。
- きっとあと 1 〜 2 年たてば、エンド ユーザーも含めてみんなクラウドに取り組み始めるでしょう。そのときにすでにクラウドに対応できるエンジニアが何人いるか、自分はクラウドに対応できるエンジニアになっているか、という勝負になるのではないでしょうか。
| <用語解説> |
| *1 wipse : Windows や関連サービスをベースにした新しいテクノロジーや標準化動向の調査研究、教育、実証実験などを行うコンソーシアム。松倉氏は wipse の会長でもある。 |
(2009 / 1 / 8 公開)
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<出演者紹介>
- 松倉氏が社長を務める東証コンピュータシステムは、東京証券取引所の売買システムや情報提供システムといったミッションクリティカルなシステムの運用などを担当する一方で、証券会社や官公庁向け情報システムの開発、販売なども行うソフトウェア ベンダーとしての側面も持つ。また、wipse コンソーシアム (Windows + Services コンソーシアム) の会長として、IT 分野の新ビジネス育成などにもかかわっている。