リレー インタビュー:クラウド コンピューディングの光と影
株式会社 アークウェイ
代表取締役
森屋英治 (もりや ひではる) 氏

VS

@IT Insider.NET
副編集長
一色政彦 (いっしき まさひこ) 氏

vol.1 「クラウド コンピューティングの可能性と Windows Azure」

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  •   端末として入出力を担当するコンピューター以外、すべてのコンピューター資源を外部のクラウド コンピューティング ベンダに任せ、その物理構成やサーバーの設置場所などを意識することなく、サービスとしてそれらをインターネットごしに利用するクラウド コンピューティングが注目を集めている。クラウド コンピューティングでは、コンピューター資源を自身で抱えず、すでに用意されたハードウェア / ソフトウェア資源から必要に応じて、必要なだけを利用分価格で使える。このため、短期間でのサービス イン、初期コストや運用コストの低減、柔軟なスケーラビリティの実現などの特長がある。一方でクラウド コンピューティングは、情報サービスのコモディティ化を進めて利益率を圧縮する、一部のサービス提供者だけの寡占化が進む、などの懸念も大きく、普及を疑問視する向きも少なくない。
  •  そこで本稿では、IT 業務に携わるプロフェッショナルのさまざまな視点から、「クラウド コンピューティング」がもたらす可能性や問題点、導入のポイント、注意すべき落とし穴などについて、リレー形式でお話をいただく。
  •  本来は単独のインタビュー企画であるが、初回である今回は特別に、森屋氏と一色氏のお二人に登場いただき、対談していただいた。
  • ■「クラウド」は視点によって大きく変わる
  • 一色:「クラウド」の見え方は、立場によって大きく異なると思います。具体的には、サービスを利用するエンド ユーザーと、そうしたサービスを開発して提供する開発者の視点ではまったく違います。エンド ユーザーから見たクラウドの利点は、どこに何があるのかを意識することなく、便利なサービスを安価に使えるということです。しかし開発者視点では、クラウドのプラットフォームがどのようなもので、どんな特徴があるのか、サービス開発のために利用できる部品 (ビルディング ブロック) として何が用意されているかが重要です。簡単にいえば、自分のコンピューター ライフがいかに豊かになるかという視点でクラウドを見るのがコンシューマ、クラウド上で何が開発できるのかを見るのが開発者の視点です。どうも現状の「クラウド」は、この両者をきちんと区別しないで議論されているケースが多く、かえって混迷を深めているように思います。
  • 森屋:視点を分けて考えるという意味では、コンシューマとエンタープライズを分けて考える必要もありますね。コンシューマ視点で見れば、クラウドは、マイクロソフトが提供している Live サービスのように、コンピューターの存在を意識せずにネット上のストレージ (SkyDrive Live Mesh)やメール サービス (Hotmail) などを利用できる存在と思えばいいでしょう。場所 (アドレス) を意識せずに、1 つの入り口からさまざまなオンライン サービスを使えるようにしたもの。これがコンシューマから見たクラウドの定義だと思います。

    <用語解説>
    ●SkyDrive : マイクロソフトが Live サービスの一環として提供しているオンライン ストレージサービス。25Gbytes まで無償で利用できる。
    ●Live Mesh : 会社と自宅のコンピューター、モバイル機器など、複数のコンピューターのデータをインターネット経由で同期可能にするサービス。こちらもマイクロソフトが Live サービスの 1 つとして提供しており、5Gbytes まで無料利用が可能。
  •  一方、エンタープライズ視点でクラウドを見たときは、クラウド サービス提供者のスタンスによって内容が異なります。具体的には、Web アプリケーションとしてアプリケーション サービスを提供する SaaS (Software as a Service)、サーバー コンピューターのハードウェア資源をそのまま提供する HaaS (Hardware as a Service)、クラウド上にアプリケーション プラットフォームを構築し、その上で各種サービスを開発可能にした PaaS (Platform as a Service) です。それぞれ具体的なサービスとしては、SaaS としては Salesforce.com が、HaaS としては Amazon EC2 が、PaaS としては Microsoft の Windows Azure (アジュール) があります。エンタープライズ企業から見ると、これらを用途に応じてどう使うか、ということになるでしょう。

    <用語解説>
    ●Salesforce.com : セールスフォース・ドットコム社が提供する Web アプリケーション型の CRM サービス (顧客管理システム)。
    ●Amazon EC2 : Amazon が提供する仮想マシン ホスティング サービス。基本的に OS からアプリケーションまで、ユーザーが自由にインストールして使うことができる。
    ●Windows Azure : マイクロソフトが開発中の PaaS サービス。Windows Azure はクラウド上の概念的な OS で、ASP.NET や .NET Framework、ストレージを利用したサービスを運用できる。
  • ■クラウドはコンピューティングに民主主義をもたらす!?
  • 一色:Windows Azure を指して、「『HailStorm』の再来だ (だからどうせ失敗する)」などと揶揄している人もいるようです。

    <用語解説>
    ●Hailstorm (ヘイルストーム) : マイクロソフトが 2001 年に発表したネット対応アプリケーション用のビルディング ブロック サービス。住所録やカレンダーなどの情報をネットワーック上に保持し、アプリケーションから使えるようにするものだったが、利用機運は高まらず、開発段階で計画が変更され、サービスは正式公開されなかった。
  • 森屋:私は別の認識を持っています。結論からいえば、Windows Azure はコンピューティングに民主主義をもたらす大きな可能性を秘めていると考えています。
  • 一色:民主主義ですか。それは、安価にスケーラブルなシステムを使えるということですか?
  • 森屋:今までは大企業でしかできなかったことが、クラウドなら小さい会社でも、個人でもできるようになるということです。現在でも、アプリケーション自体の開発は個人でも可能ですが、実際に開発したサービスを公開して、多くの人にビジネスとして利用してもらうためには、相応の可用性を保証できるサーバーを確保しなければなりません。ホスティング サービスを使うにせよ、データセンターを使うにせよ、かなりの初期投資が必要です。この点クラウドなら、最高のサーバー環境を利用分支払いで使えます。
  • 一色:確かに。世界中の人にサービスを提供しようとすれば、最初からある程度の利用者規模を想定しないといけません。規模によって、用意するサーバーも必要な資金も変わってきます。例えば最初は100人程度を想定して開発して、サーバーをホスティングしたとして、順調に人気が出て利用者が千人、1 万人、10 万人と増えたときに、ホスティングの料金を増やせば対応できるかといえばそうではありませんね。
  • 森屋:そうです。分かりやすくいえば、10 億円のスケールを持つシステムを、最初は少しだけ、必要なだけを利用分で、個人レベルでも使える。規模が拡大してきたら、儲けに応じて支払いを増やせば、理屈では 10 億円規模のシステムまで拡大できるわけです。もちろん、この際の展開も簡単です。こういうビジネスを、個人でもスモール スタートできる。従来は大企業しか手にできなかった可能性を、個人レベルにも解放してくれるのがクラウドだと思います。
  •  開発者視点で見れば、開発費用やサーバー構築、運営のコストを大幅に圧縮できます。一方の顧客側から見れば、高品質のサービスを低価格で受けられる、ということにつながると思います。
  • 一色:小規模というのは、必ずしも大企業のミニチュアではないはずです。スモール スタートならではの新しいビジネス チャンスがあると思います。スモール スタートならではの新ビジネスが生まれて、それが今までにない企業価値を生み、収益を生み出すのではないかと思っています。
  • 森屋:スモール スタートできるという長所に加え、クラウドでは、アプリケーションだけでなくデータもクラウドにあって、さまざまなサービスと連携できる利点があります。流通大手のようなところでもないと、POS を使った売れ筋分析などできませんでしたが、例えば駅前の焼鳥店が、低料金で POS を使ったさまざまな分析を利用できるようになるかもしれません。こうしてみんながクラウドを活用して、データが集約すると、次はその集約されたデータを活用できるような新しいサービスが生まれるかもしれない。ここには大きなビジネス チャンスがあると思います。
  • 一色:駅前の焼鳥店がクラウドを活用しますかね?(笑)
  • 森屋:それについては、従来ビジネスで行き詰っていた福井の懐石料理店が、ヤフーの検索連動型広告を使って、得意料理だった「鯖寿司」の通販に乗り出し、地域的なハンデを超えて成功を収めたケースが答えになると思います。IT がすべてとはいいませんが、小さな組織でも IT をうまく生かすことで、これまでになかったビジネスを切り開けるチャンスがあると思いますよ。逆に競争優位という意味では、IT をうまく利用できないと、淘汰される危険が高まると思います。
  • 一色:クラウドが焼鳥店を救う、ですか。(笑)
  •  ところで、森屋さんの議論には、「クラウドは安価で使える」という前提があるように思いますが、Windows Azure はまだ利用価格を公表していません。本当に個人でもスタートできるような価格体系になるでしょうか。
  • 森屋:ビジネスの常識からして、代替可能な競合サービスがあれば、価格はそれと大差ないものになるはずです。この意味で、すでに正式なサービスを開始している Amazon EC2 の価格を見ると、インスタンスはデフォルトの Small 構成で Windows を使った場合で 1 時間 0.125 ドル (90 円換算で 11.25 円)、1 カ月では 8000 円ちょっとです。ストレージは 1Gbytes / 月が 0.17 ドルなので、1Tbytes でも 174.08 ドル /月 (同 90 円換算で 1 万 5667 円 / 月) です。これにデータ転送料も加わりますが、月間で数万円規模ですから、個人でも十分負担可能なレベルでしょう。Windows Azure でもここから大きく逸脱した価格設定にはできないはずです。

  • <出演者紹介>
    森屋英治 氏

    (株)アークウェイ 代表取締役
    マイクロソフト コンサルティング本部にて E-Commerce など多数のサイト構築でコンサルテーションを経験し、.NET の普及に貢献した。その後 2004 年に現在のアークウェイを設立、.NET ベース システムのアーキテクチャ構築支援、ソフトウェア ファクトリの研究、.NET によるアジャイル開発の研究など、最新のソフトウェア技術を生かしたコンサルテーションに定評がある。ソフト開発未来会議メンバー。
  • 一色政彦 氏
    @IT Insider.NET 副編集長
    業務パッケージ ソフトウェア会社のプログラマから 2003 年にテクニカル ライターに転身。その後、株式会社 デジタルアドバンテージに加わり、現在は副編集長として @IT Insider.NET の企画立案、執筆、編集を担当する。クラウド コンピューティング関連の記事執筆も多数。
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