開発者のためのケーススタディ
―先端事例を開発視点で斬る
vol.02

NECソフト株式会社
IT システム事業部
WEB サービスグループ

プロジェクトマネージャー
上東野祐二 氏 (中央)

リーダー
黒河内裕治 氏 (左)

照山聖岳 氏 (右)
はてなブックマークに追加はてなブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録
  •  NECソフト株式会社 (以下、NECソフト) は、官公庁、自治体をはじめ、さまざまな業種の顧客企業に対して、システム インテグレーションを提供している。同社は、あらゆる業種、あらゆるテーマに最適なソリューションを提供するために、業種と技術のマトリックスで開発チームを編成している。しかし、最近ではそれに加えて、案件ごとに開発プロジェクトにアーキテクトを派遣する、アーキテクト チームが社内で重要な役割を果たすようになってきたという。ここでは、アーキテクト チームが生まれた背景やその役割について、Windows テクノロジ担当のアーキテクト チームをリードするNECソフトの上東野 祐二 (かとうの ゆうじ) プロジェクト マネージャーほか 2 名にお話を伺った。
  • ■開発現場の要請から生まれたアーキテクト チーム
  •  NECソフトは、顧客の業種に特化した人材と、さまざまな技術に精通した人材を必要に応じ抽出し組み合わせて、最適な開発チームを構成できる「マトリックス」と呼ぶ独自のビジネス スタイルをチーム編成の基本に据えている。「マトリックス」は縦軸を業種軸、横軸をテーマ軸と位置づけ、業種軸は「官公庁・自治体」「医療・福祉」「金融」「製造・プロセス・建設」「流通・サービス」「リテール」「運輸・通信」など幅広い業種に対し豊富な人材を揃え、テーマ軸は「ソフト開発技術」「インターネット技術」「モバイル技術」など技術分野に特化した人材を揃えている。そしてこれら双方の軸から、技術者を抽出し、組み合わせ、顧客の問題解決に最適なプロジェクトチームを結成して、開発案件に取り組んでいる。
  •  こうしたNECソフト独自のビジネス スタイルは、長年にわたって、多様な業種・業態、多彩な顧客要望に応える中で築き上げてきたものだ。このスタイルがもたらす第 1 のメリットは、各業種に特化した専門の技術者集団が顧客に対応することによって、業種に特有の課題を適確に解決できるという点だ。そして第 2 のメリットは、オペレーティング システム、ミドルウェア、アプリケーションといった全領域のソフト開発技術から、インターネット技術、モバイル技術まで、主要な技術分野における専門の技術者集団が対応することで、特定の技術分野はもちろん、複数の技術分野を組み合わせたソリューション提案が可能になることだ。
  •  簡単にまとめれば、あらゆる業種の顧客に対応し、顧客が求めている分野の課題を、幅広い技術で解決するためのビジネス スタイル、ということになるだろう。しかし上東野氏によれば、こうした従来型のビジネス スタイルだけでは、うまく適用できないケースも増えているという。このため最近では、従来型のスタイルに加え、案件ごとにプロジェクトにアーキテクトを派遣するアーキテクト チームが、社内で重要な役割を果たすようになってきたとのことだ。具体的な例として、第 3 ソリューション事業本部 IT システム事業部 WEB サービスグループの上東野氏が率いるチームでは、.NET アーキテクト チームとして、案件の求めに応じてアーキテクトをプロジェクトに派遣する役割を担っている。この .NET アーキテクト チームが生まれた背景について、上東野氏は以下のように語る。

  • NECソフト株式会社
    IT システム事業部 WEB サービスグループ
    プロジェクトマネージャー
    上東野祐二 氏
  •  「意識してアーキテクト チームを作ったわけではなく、各業種のプロジェクト チームに関わり、Windows ベースのソリューション開発を支援するうちに、自然と.NET のアーキテクト チームになっていった、というのが実情です。当時はメインフレームやオフコンから、Windows をはじめとするオープン系システムへの切り替え時期にありました。マルチベンダーが前提のオープン系システムでは、メインフレームやオフコンのようなプロプライエタリ システムと比べて、利用できる技術や開発方式が多様で、どのような技術や開発方式を採用するのかまでを見通して、初期の概要設計を行う必要があります。メインフレーム / オフコンを専門としていたエンジニアにとって、それは経験の乏しい作業でした。そこで、Windows テクノロジに詳しいエキスパートへのプロジェクト参画要請が私たちのチームにきたのです。.NET アーキテクト チームは、開発現場の要請から生まれたともいえるでしょう」 (上東野氏)
  • ■開発作業を効率化するとともに開発ノウハウを蓄積
  •  従来のメインフレームやオフコンのシステムは基本的に専用端末ベースであり、システム構成やネットワーク構成などはほぼ固定で、採用する技術の組み合わせを検討する必要性がそれほど高くはなかった。これに対し Windows ベースでは、Windows アプリケーションか Web アプリケーションかという選択だけでも、システム構成や ユーザー インターフェイスの実装方法などが大きく違ってくる。このため経験の少ないエンジニアが適切なアーキテクチャを見極めるのは難しい。作業を円滑に進めるためには、Windows テクノロジに通じたエキスパートをプロジェクトに派遣する必要があったのだ。
  •  また、開発プロセスの違いに加え、オープン系システムは、技術や開発方式の変化のスピードが非常に速いという、もう 1 つの問題もある。顧客にとって最適なソリューションを提案するには、技術トレンドや製品トレンドを適確に把握する必要があるが、すべてのエンジニアが、Windows の技術・製品トレンドをウォッチし続けるのは現実的ではない。これについても、Windows テクノロジに詳しいエキスパートが担当したほうが効率がよい。
  •  このように開発現場からの要請で、Windows テクノロジに精通したエキスパートをプロジェクトに参画させるうちに、そのエキスパートが集まったチームが半ば自然発生的に .NET アーキテクト チームになっていったということだ。

  • NECソフト株式会社
    IT システム事業部 WEB サービスグループ
    リーダー
    黒河内裕治 氏
     
  •  NECソフトにおけるアーキテクトの役割は、各プロジェクトに対する技術コンサルタントのような位置づけにも思える。アーキテクトと技術コンサルタントの違いについて尋ねたところ、IT システム事業部 WEB サービスグループ リーダーの黒河内裕治 (くろごうち ゆうじ) 氏は、次のように説明してくれた。「当グループの .NET アーキテクトは、全員がプログラミング スキルを有しています。プロジェクトへの参画が決まると、プロジェクトの開始から終了まで、プロジェクト チームの一員として開発作業に携わります。業種に特化しないアーキテクチャ設計やシステムの共通基盤などを担当し、必要に応じて自分でコードを書くこともあります。技術コンサルタントというと、技術指導だけを担当する部外者のようにも聞こえますが、当グループの .NET アーキテクトはあくまで現場開発者の一員として仕事をします」 (黒河内氏)
  •  現在、NECソフト IT システム事業部では、上東野氏を筆頭に約 10 名が .NET アーキテクト チームを編成し、開発現場のプロジェクト チームに対して、アーキテクトとして参画する体制をとっている。常設のアーキテクト集団が社内にあり、開発現場のプロジェクト チームからのリクエストに応じて、アーキテクトをプロジェクトメンバとして参画させ、開発を支援するという体制は、非常にユニークなものだ。こうした体制をとるようになってから、前述のとおり開発作業の円滑化、効率化が図られたことに加え、アーキテクト同士の横の連携によって、アーキテクト チーム内にさまざまな開発ノウハウが蓄積していく、というもう 1 つのメリットもあるという。

  • NECソフト株式会社
    IT システム事業部 WEB サービスグループ
    照山聖岳 氏
     
  •  IT システム事業部 WEB サービスグループの照山聖岳 (てるやま きよたけ) 氏は、アーキテクトチーム内の開発ノウハウの蓄積について、以下のように語る。「アーキテクト同士は、情報共有ツールによって、お互いの開発現場の情報を共有しているため、ある開発現場の経験を、他の開発現場に生かすということが可能になります。Windows のアーキテクトと、UNIX のアーキテクトが情報交換することによって、それまでになかった問題解決手法に気付かされることもあります。また、プロジェクトに派遣されたアーキテクトが解決できない問題を、アーキテクト チーム全体で検討して、解決策を模索することも可能になります。アーキテクトがチームとして編成されているということは、開発ノウハウの蓄積という点で、とても大きな意味があるのです」 (照山氏)
  • ■開発プロジェクトにおけるアーキテクト活用とアーキテクト自身の育成
  •  NECソフトは、NECグループにおけるソフトウェア事業の中核企業として、5000 名弱の従業員を抱える大手システム インテグレーターだ。だが、大手システム インテグレーターが陥りがちな硬直した開発体制ではなく、業種やテーマに応じて柔軟に対応できる開発体制を築いている。その理由は、優秀な人材を数多く育成し、擁していることだろうが、ここで紹介したアーキテクト チームの存在も一役買っていることは間違いない。
  •  NECソフト社内のアーキテクト チームは、選択の幅が広く、また変化の激しいオープン系システム開発の効率化、ノウハウの蓄積を図るうえで、非常に興味深い存在だ。開発チームが違和感なく新しい開発アプローチに触れながら、成功体験を得ることができる。またさらに重要なこととして、開発プロジェクトを成功に導くために不可欠なアーキテクトに対し、多種多様な現場経験を積ませ、自身のスキルアップを図ってもらうこともできる。日本では、情報システム開発に幅広い知見を持ち、システムのグランド デザインができるアーキテクトが不足していると聞く。今回ご紹介したNECソフトの取り組みは、アーキテクト不足が開発プロジェクトにもたらす問題を回避しながら、同時にアーキテクトを育成するアプローチとして、注目すべき点が多いだろう。
  • NECソフト株式会社
    http://www.necsoft.com/
    本社:東京都江東区新木場 1-18-7
    設立:1975 年 9 月
  • NECソフト株式会社プロファイル
    NECソフト株式会社は、NECグループにおけるソフトウェア事業の中核企業として 1975 年の創立以来、システム インテグレーション & システム サービス、ソフトウェア開発、ソフトウェア パッケージ、ASPなどを中心に、さまざまな顧客へソリューションを提供し、信頼のパートナーシップを築き上げてきた。
  • NECソフトのトータル サービスは、それぞれ独立していたサービスを 1 つのサービスとしてトータルに提供することで、顧客が本当に必要としている価値の創造をダイナミックにサポートし、確かな情報技術をとおして、顧客の知的価値創造に貢献し、豊かな情報社会の実現を目指している。
  • (2009 / 4 / 7 公開)